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仙台地方裁判所 昭和31年(行モ)4号 決定

申立人 天野政吉

被申立人 仙台市長

主文

被申立人が復補発第八十六号で昭和三十一年十一月二十六日、申立人に対してなした申立人所有の仙台市東五番丁十一番地所在の別紙図面記載建物の移転の代執行をすべき旨の戒告の執行は、申立人の便所、風呂場、物置等に対する部分を除いて、本案判決確定に至るまでこれを停止する。

(裁判官 新妻太郎 枡田文郎 平川浩子)

図面〈省略〉

執行停止決定申請書

申請人  天野政吉

被申請人 仙台市長 岡崎栄松

申請の趣旨

被申請人仙台市長岡崎栄松の発したる昭和三十一年十一月二十六日復補発第八十六号戒告による申請人所有の仙台市東五番丁十一番地所在建物別紙添付図面記載(a)(b)(c)(d)(a)点を結ぶ線内の木造瓦葺二階建の一部の建物の移転方についての行政代執行法第二条による代執行は本案判決をなすに至るまでこれを停止する。

旨の決定を求める。

申請の原因

第一、本件土地の土地区劃整理換地予定及使用の開始の顛末

一、申請人は昭和二十一年二月より仙台市東五番丁十一番地五百四十七坪の内九十九坪七合を前所有者針生よしより更に引続き現在の所有者横山達三より借受けその土地上に木造瓦葺二階建一棟此建坪八十二坪建物を建築して旅館業を経営し今日に至つている。(疎明甲第九号)

二、右賃借地は仙台市特別都市計画に基く区劃整理の対象となり被申請人仙台市より申請人宛に昭和二十六年十二月二十八日付土地区劃整理換地指定に関する通知(建整発案三七八号)により右借地は仙台市東五番丁十一番地の一部第七ブロツク第三号(約七十一坪)と指定された。(疎明甲第一号)

三、昭和二十九年八月二十八日付(復整発第三七七号)土地区劃整理換地予定地使用開始についての申請人宛の被申請人の発行の通牒により右賃借地の換地は昭和二十九年八月三十日より使用開始の決定を受けた。(疎明甲第二号)

四、申請人は昭和三十一年四月十日建物及その他の工作物を指定された第七ブロツク第三号内に移転建設して右換地の現実の使用を開始して今日に至つている。(疎明甲第三号)

五、但し目下申請人と右借地の賃貸人現所有者横山達三の間には右土地の賃貸借に関し賃料値上不応諾による土地賃貸借契約解除を原因として当事者間の仙台地方裁判所昭和三十年(ワ)第五六八号建物収去土地明渡事件が係属している。

第二、訴外成田徳治の本件借地に対して賃借権不存在の事実

一、申請人は本件土地を昭和二十一年二月より賃借し建物建築のため使用していた処昭和二十一年三月頃より訴外成田徳治より本件借地の一部(約十五坪別紙図面成田建物記載の地域)の転貸の申入を申請人に対してあつたが右申込土地は仙台市の特別都市計画による道路敷地の予定地となつているのでその転借の申込を拒否した。

二、然るに訴外成田徳治は仙台市より道路拡張のため移転通知あるまで一時使用の目的で使用したいとの再三の申入なので右一時使用の条件を容れて昭和二十一年六月使用料を無償として一時使用として前記十五坪を使用させるに至つた。申請人は訴外成田より今日まで厘毫の金銭の交付もなく且つ従つて訴外成田徳治は仙台市に対し借地権者の申請もしていない却つて申請人は地主に対するその賃料も全額今日まで支払つてきた。

三、其後被申請人より申請人に対し右土地につき昭和二十九年十一月七日付戒告書により昭和三十年一月十八日まで建物その他の工作物移転の通知が発せられたので申請人は訴外成田徳治にその工作物の収去方を申入れたが今日まで収去しないので申請人と訴外成田徳治の間に右借地の内十五坪につき仙台地方裁判所三十一年(ワ)第九九号賃借権不存在確認事件として目下係属中である。(疎明第一二・第一一)

第三、被申請人の代執行通知に至る顛末

一、申請人は被申請人に右借地に対する借地権者としての届出をなし借地権の存在に基き換地予定地指定及使用開始決定を受け申請人は右全地域に対する賃借料の金額を支払つて来たが訴外成田徳治は右借地内十五坪に対しては単なる一時使用であり借地権者の届出も賃料の支払もなく従つて右土地については転借人でも賃借人でもないことは前項記載の如く明瞭なる事実である。且つ申請人は前述の如く昭和三十一年四月十日建物を収去している。

二、然るに被申請人に於いては右の如く訴外成田徳治の借地権の不存在なる事実は各種の報告によつて充分了知しているに拘わらず被申請人は申請人に対して復補発第八十六号通知により

(1) 被申請人は昭和二十六年十二月二十八日付通知(建整発三七八号)により換地予定地を決定しながらこれを猥りに変更して昭和三十一年二月二十三日付「建物工作物等の移転代執行予告について」の通知を申請人に発しこの通知書の「別紙平面図の通り代執行に依り除去及び移転を実施すべきにつき御了知ありたく通知する」の文面により通知書添付は別紙平面図を見れば申請人の使用地域内の一部(北東隅)を成田の換地分に三坪七合五勺の(間口一間五分奥行二間五分)指定してるが如き趣旨により右地域内の申請人所有の建物を除去する様指令して来た即ち訴外成田徳治に借地権あることを認め且つ既に決定した申請人指定換地の指定中の右地域内の使用を排斥するが如き違法の決定をなした而かも右変更は仙台市土地区劃整理委員会の決議も経て得ない。(甲四)

(2) 然るに被申請人は前(1)項の先の決定を取消すことなく又仙台市土地区劃整理委員会の決議も経ることなくして昭和三十一年十月二十九日付「建物移転について」の通知により「東五番丁十一番地貴殿借地権利地内の北東端約五坪(通知書添付図面記載の如く間口二、八六間、奥行一、七五間)の地域に貴殿の転借人成田徳治所有建物を移転することにしたから御了知されたい」との文面により被申請人は権限ない成田徳治のために賃借地を提供すべき趣旨の違法な決定をなし不法にも申請人所有建物除去方を指令して来たものである。(第五)

(3) 更らに被申請人は昭和三十一年十一月九日付「建物移転について」の通知により「北東端間口二、八六間、奥行一、七五間の除却方の指令は……中略……転借人を入れることを目的としたものでないことが明かである」との趣旨の文面を申請人に発した。この指令は被申請人は何等の法律上事実上の根拠もなく記載の借地権を不法に申請人より剥奪する違法な指令であることは明瞭である。

(4) 然るに申請人は昭和三十一年十二月一日付復補第八六号「建物移転について」と題する通牒によつて十二月四日に本件申請の趣旨記載の如き代執行を行うとの通知を受けた。

尚右の通知は昭和三十一年十二月一日午後にその送達を受けたが十二月一日は土曜日翌日は日曜日であり仮りに被申請人の要求は正当であるとしても到底申請人としては右短期間に申請の趣旨の如き建物の除去は不可能な期間である。(第八)

三、前項(1)(2)の被申請人の指令は事実上法律上根拠のなくして申請人の借地権を剥奪する違法な指令であるから申請人はその取消を提訴する次第であるが若し右被申請人の違法指令の取消訴訟が確定前に申請趣旨の如き代執行さるるに於いては申請人の蒙むる損害即ち本件申請人所有の天野旅館の北東隅を被申請人の代執行趣旨の如く間口二間八六奥行一間七五〇の建物が除去されば(一)天野旅館の間口が狭隘となり旅館営業の経続も不可能となり防火上も多大の支障を齎す様になる即ち現在の天野旅館の使用間口は僅かに二間九分四厘となり、その奥に建坪四十坪余の木造瓦葺二階建が存し且つ周囲には仙台駅前として建物が密集している又代執行趣旨の地域には(天野旅館の北東隅)天野旅館の玄関、台所等が存在し、これが取毀され使用出来ないとすれば街路より天野旅館に通ずる通路もなく火炊も出来ず建物の構造上から見ても全壊に等しく申請人経営の天野旅館の継続経営も不可能なり、被申請人の代執行によつて蒙むるべき損害而かも絶対に恢復の出来ない損害を生ずるに至るので本案の判決まで代執行の停止を申請する次第である。

(前掲決定書添付図面参照)

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